第2章 竜爪山の民俗
竜爪かみなり
    なりじいけ

謎解きのすすめ その2
民俗の歴史的系譜
 初茄子をとると、竹の棒に突き刺して、へたの方を竜爪山に向けて供える風習が、清水市の草薙、船越あたりでは現在も行なわれている。静岡市大谷あたりでは、オテントウサンに供えるという。農作物の初物を神仏に供えてから、初めて食べられるようになる収穫儀礼は一般的な事だが、茄子を竹の棒に刺すところと竜爪山に手向ける心持ちが、へたの方向性で示されているところに着目してみたい習俗である。初物の手向けの対象が、竜爪山であるところに民俗の歴史的系譜が秘められているといえるだろう。
 いま1つ「一富士、二鷹、三茄子」ということわざとの関連性である。めでたい初夢をたとえたものと考えられているが、駿河の名物を並べたものである。特に、早茄子は江戸時代から知られた特産品であった。『甲子夜話』には、初茄子を将軍に献上することが、家康の時より始まったという。昔は、岡清水村より出したが、今は三保村からという事などが記されている。初茄子が貴重なものであり、供え物としての価値が古くから続いてきたことを示しているといえよう。
 また、茄子はお盆の際、牛のかたどりに使うものである。古くは、古墳時代の祭祀遺跡などからも土製のミニチュアの牛型が出土しており、供え物としての系譜がかなり古い事を示している。竹の棒に刺した初茄子が、牛のかたどりであるという伝承は伝わっていないが、牛を殺して祭りの犠牲とする系譜を、竜爪山の謎解きの1つに加える必要があるだろう。
 それは、雨乞いのために竜爪山に牛の首を埋けて来る民俗と繋がってくるといえよう。牛石伝承や牛にまつわる伝承が竜爪山をめぐる山麓線に残っており、竜爪山の謎解きに、牛がキーワードになっているのである。