龍爪山主峰
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薬師岳
・文殊岳
晴れてさえいれば、静岡或いは清水の街角から、いや見る限りの駿河の野から、いつも仰ぐ事の出来る、二つの峰を持った龍爪山は、すばらしい山である。遠く赤石の山々を背景に、あたりに聳えて、類いのない名山である。小さい時分からこの山の麓に住んで、ずっと親しみと、畏敬とをもって眺めて来た。
昔は「龍爪山・山の神権現」とも、或いは「龍爪山権現」とも、又単に「龍爪権現」などとも呼ばれていた。その神のまします山の歴史を、そのありしままの姿を、私なりに考えてみたいと思うのである。その理由は、この山の戦後のいちじるしい荒廃もさることながら、長い間歴史と共に歩んだその真の姿が、遺跡なども含めて、今急速に亡び、まさに人々の心から、遠のき、忘れ去られようとしている。時代の変遷とは、そのようなものかも知れないが、その事を大変惜しいと思うわけである。